SCAMPER思考法 企画アイデア打破の実践
広告代理店プランナーをはじめとする企画・アイデア創出に関わる方々にとって、「既存の思考パターンから抜け出せない」「アイデアが枯渇してきた」といった課題は常に直面するものかもしれません。特に多様なクライアントニーズに応え、常に斬新かつ効果的な企画を生み出し続けることは容易なことではありません。
このような状況を打破し、新しい視点からアイデアを生み出すための一つの有効なフレームワークが「SCAMPER思考法」です。SCAMPERは、既存のアイデアやコンセプトを意図的に異なる視点から問い直し、改良や再構築を通じて新しい発想を引き出すための体系的なアプローチを提供します。
この記事では、SCAMPER思考法の各要素を解説し、特に広告企画やビジネスアイデア創出の場面でどのように活用できるか、具体的な実践方法や適用例をご紹介いたします。
SCAMPER思考法とは
SCAMPER思考法は、アメリカの経営学者ボブ・エバール氏が考案したアイデア発想のためのチェックリストです。アレックス・オズボーン氏のブレインストーミング原則に基づき、ジェネラル・エレクトリック社のシドニー・パーンズ氏が発展させた概念を整理したものです。
このフレームワークは、既存の製品、サービス、プロセス、アイデア、コンセプトなどを出発点とし、以下の7つの要素（頭文字をとってSCAMPER）の視点から問いを投げかけることで、多様な改善策や新しいアイデアを生み出すことを目的としています。
- Substitute（置き換える）
- Combine（組み合わせる）
- Adapt（応用する）
- Modify/Magnify/Minify（修正・拡大・縮小する）
- Put to another use（別の用途に使う）
- Eliminate（取り除く）
- Reverse/Rearrange（逆転・再配置する）
それぞれの要素は、既存の対象を意図的に変化させたり、異なる視点から捉え直したりするためのヒントを提供します。単に自由な連想に頼るブレインストーミングとは異なり、特定の切り口から思考を深めることができるため、アイデアが行き詰まった際の突破口として非常に有効です。
各要素の解説と発想の視点
SCAMPERの各要素が、どのような問いを投げかけ、どのような発想を促すのかを具体的に見ていきましょう。
Substitute（置き換える）
ある要素を別のものに置き換えることで、何が起こるかを考えます。
- 問いの例:
- 何で置き換えられますか？
- 他の材料、素材、要素は使えませんか？
- 他の人、場所、時間はどうですか？
- 別のプロセスやルールに置き換えられますか？
- 異なる感情やコンセプトに置き換えられますか？
- 発想の方向性: 新しい機能、コスト削減、ターゲット層の変更、提供方法の変更など。
Combine（組み合わせる）
二つ以上の要素やアイデアを組み合わせて、新しいものを生み出します。
- 問いの例:
- 他のアイデアや機能を組み合わせられますか？
- 異なる用途や目的を組み合わせられますか？
- 複数の要素を一体化できますか？
- 異なる視点や専門知識を組み合わせられますか？
- 発想の方向性: ハイブリッドな製品/サービス、相乗効果、新しい価値の創造、効率化など。
Adapt（応用する）
既存のアイデアやコンセプトを、別の文脈や目的に応用・適合させます。
- 問いの例:
- 他の分野のアイデアを応用できませんか？
- 過去の成功事例から何を学べますか？
- 自然界の仕組みを模倣できませんか？
- 既存のものを新しい状況に合わせて修正できますか？
- 発想の方向性: 新しい市場への参入、機能の追加、既存課題への解決策の適用など。
Modify/Magnify/Minify（修正・拡大・縮小する）
要素の属性（形、色、音、大きさ、機能など）を修正したり、拡大・縮小したりします。
- 問いの例:
- 色、形、音、匂いなどを変えられますか？
- 大きくしたり、強くしたり、長くしたりできますか？（Magnify）
- 小さくしたり、弱くしたり、短くしたりできますか？（Minify）
- 特別な要素を追加できますか？
- 機能を増減できますか？
- 発想の方向性: 製品のバリエーション、ターゲット層に合わせた調整、差別化、効率改善など。
Put to another use（別の用途に使う）
既存のものを、本来の用途とは異なる目的や顧客層のために使用することを考えます。
- 問いの例:
- 他に使い道はありませんか？
- 別のターゲット層に使えませんか？
- 他の業界で応用できませんか？
- 本来の目的とは異なる課題を解決できませんか？
- 発想の方向性: 新規市場開拓、プロダクトライフサイクルの延長、隠れたニーズへの対応など。
Eliminate（取り除く）
特定の要素や機能、ルールなどを意図的に削除・単純化することを考えます。
- 問いの例:
- 何を取り除けますか？
- シンプルにできませんか？
- 不必要な要素は何ですか？
- ルールや制約をなくせますか？
- コストや時間を削減できませんか？
- 発想の方向性: コスト削減、効率化、本質へのフォーカス、ミニマリストなデザインなど。
Reverse/Rearrange（逆転・再配置する）
物事の順序、構造、役割などを逆転させたり、再配置したりします。
- 問いの例:
- 逆さまにしたらどうなりますか？
- 順番を変えられますか？
- 役割を逆にしたらどうなりますか？
- 構造を組み替えられますか？
- プロセスを逆から辿れますか？
- 発想の方向性: 新しい視点の獲得、サプライズ要素、非日常体験、ボトルネックの解消など。
広告企画・アイデア創出におけるSCAMPERの実践
SCAMPER思考法を広告企画やアイデア創出の業務に適用するステップは以下の通りです。
- 対象の特定: まず、アイデアを出したい対象を明確に定義します。これは、新しいキャンペーン全体、既存の広告クリエイティブ、プロモーション手法、ターゲットとのコミュニケーションプロセス、あるいは特定の課題（例: 若年層へのリーチ強化）など、具体的なものであればあるほど、その後の問いが立てやすくなります。
- 各要素による発想: 特定した対象に対し、SCAMPERの7つの要素それぞれについて、問いを立てながらアイデアを発想します。ブレインストーミング形式で、できるだけ多くのアイデアを出すことに焦点を当てます。質よりも量を重視し、批判は行わないようにします。チームで行う場合は、それぞれの要素を担当したり、順番に進めたりする方法も考えられます。
- 例: 「SNSキャンペーンのアイデア創出」を対象とする場合
- S(ubstitute): 参加者をAIに置き換えたら？景品を体験に置き換えたら？
- C(ombine): SNSとARを組み合わせたら？オンラインとオフラインの参加を組み合わせたら？
- A(dapt): 他業界の口コミキャンペーンを応用したら？ゲームのレベルアップ要素を取り入れたら？
- M(odify): キャンペーン期間を1日に短縮したら？参加ハードルを極限まで下げたら？
- P(ut to another use): 投稿内容をユーザーの悩み相談に利用したら？
- E(liminate): ハッシュタグをなくしたら？応募フォームをなくしたら？
- R(everse): 企業からユーザーに景品を送るのではなく、ユーザーが企業に何かを贈る形式にしたら？
- 例: 「SNSキャンペーンのアイデア創出」を対象とする場合
- アイデアの評価と発展: 出てきたアイデアリストの中から、実現可能性、新規性、ターゲットへの響きやすさ、目的に対する適合性などの観点から有望なアイデアを選びます。選んだアイデアは、さらに深掘りしたり、他のアイデアと組み合わせたりして発展させます。実行計画や具体的な施策に落とし込む検討を行います。
- 試行と検証: 可能であれば、選んだアイデアをプロトタイプとして試したり、小規模で検証したりします。フィードバックを得て、アイデアをさらに磨き上げます。
SCAMPER思考法を定着させるヒント
SCAMPER思考法は、単発のアイデア出しだけでなく、継続的な思考習慣として取り入れることで、その効果を最大限に発揮します。
- 習慣化: 企画の初期段階やアイデアが行き詰まった際に、意識的にSCAMPERの視点を取り入れる習慣をつけましょう。チェックリストを手元に置いたり、テンプレートを作成したりするのも有効です。
- チームでの活用: チームミーティングやワークショップでSCAMPERを導入することで、多様な視点を取り入れ、より多くのアイデアを生み出すことができます。チームメンバーそれぞれが特定の要素を担当するなども効果的です。
- 他の思考法との組み合わせ: SCAMPERは、ブレインストーミングやマインドマップ、ロジックツリーなど、他の思考法やツールと組み合わせて使用することも可能です。例えば、SCAMPERで出したアイデアをマインドマップで整理したり、ロジックツリーで課題を分解した後に各要素に対してSCAMPERを適用したりできます。
まとめ
SCAMPER思考法は、企画やアイデア創出のプロセスにおいて、既存の枠にとらわれず、体系的に新しい発想を生み出すための強力なフレームワークです。Substitue、Combine、Adapt、Modify/Magnify/Minify、Put to another use、Eliminate、Reverse/Rearrangeという7つの視点から問いを投げかけることで、アイデアの枯渇を打破し、既存のアイデアを革新的に変化させることが可能になります。
特に広告代理店プランナーの方々にとっては、多様なクライアントや商材に対して常に新しいアプローチが求められるため、SCAMPER思考法は非常に実践的で役立つツールとなるでしょう。ぜひ、日々の業務の中でSCAMPERの視点を意識し、アイデア発想の羅針盤としてご活用ください。
このフレームワークを使いこなすことで、より創造的で効果的な企画を生み出す一助となることを願っております。